2003年10月11日

EU法講義第16回

I. 最近の動き

議会が航空旅客データを対米関係で要求

EUのデータ保護水準(一般データ保護指令95/46、通信におけるデータ保護指令2002/58から検討した場合、アメリカ政府がヨーロッパの航空会社に要求している顧客データの引渡しに応じるべきではない。アメリカのデータ保護水準が足りない。今後とも、政治的に最高レベルでアメリカとの協議を要請。

Nintendo Europeに対し1億4912.8万ユーロ科料処分

2003年10月8日官報L255に掲載、2002年10月30日決定。
メーカによる全領域で長期間の平行輸入妨害、捜査が開始されてもなお独禁法違反が続いた、違反の首魁、充分な威嚇効果を確保する目標などを配慮して、日本企業に対する処分としては新記録の高額になった。

II.日本企業関連独禁法実務

FETTCSA
2000年5月16日委員会決定、官報L268/1(2000年10月20日)。
Far East Trade Tariff Charges and Surcharges Agreement (FETTCSA)。
東洋諸国とヨーロッパの間の海上運送について、諸手数料について、公開されている金額から割り引きを認めない、との同意。海上運送そのものについては、EC条約第81条第1項からの例外が妥当するが、一部の手数料は、港での扱い、為替レート変動などを対象とするから、例外が妥当しない。
日本の運送会社としては、Kawasaki Kisen, Mitsui OSK Lines, Nippon Yusenが各62万Euroの科料処分を受けた。理由:短い期間(3ヶ月のみ実施)、委員会の捜査を受けて遅滞なく中止、値段自体に関する合意より、割引しないとの合意だけ、など。
この業界では以前

Mitsui OSK Lines等、94年12月21日決定、CELEX 394D0985 の決定があった。
Far Eastern Freight Conference、71年から海上運輸・陸上運輸について価額協定。
海上運輸については免除。
1万ECUの過料(微細処分)。理由:この業界で最初の決定。
将来にはこの協定を止める義務を確認する意味。

Asahi Glass 94年12月16日決定、CELEX 394D0896。

フランスのSaint-Gobain Vitrage社と共同企業設立。
フロントグラスなどについて研究が目的。
92年12月7日の契約を委員会に提出、消極的証明書を申請。
第81条の適用:当事者は企業、協定、競争制限(2005年まで競争しない約束)。
第3項による個別免除:消費者のために安全改良、研究規模から共同開発が必要、競争制限に期限を付けているから、必要な程度を超えない。
81条第1項が本来この契約を禁止、しかし第3項による免除。

International Private Satellite Partners (IPSP)

94年12月15日決定、CELEX 394D0895。
アメリカの会社、通信衛星を打ち上げ、通信サービスを提供。
Trans-Atlantic Satellite Inc.がIPSPに参加、Nissho Iwai Co.の子会社、IPSP参加のために設立された子会社。
第81条第1項: 企業間、協定、競争制限(成立しない)。
理由:当事者が独自に通信衛星を利用する通信サービス市場に参加できない、逆に今までの独占通信業者に競争相手が新たに生じるから、競争促進。
決定:消極証明書。

III. EC条約第30条(旧第36条)、Cassis de Dijon判例との関係

「第28条および第29条の規定は、公共道徳、公の秩序、公共の安全、人の健康および生命の保護、植物の保存、美術的、歴史的若しくは古学的価値のある国宝の保護または工業的および商業的所有権の保護の理由から正当化される輸入、輸出又は通過に関する禁止または制限を防げるものではない。但し、このような禁止又は制限は、加盟国間の貿易における専断的な差別の手段、又は貿易の隠れた制限となってはならない。」
Cassis de Dijonの復習: 輸出国主義、相互認容主義。
例外は必然性の理由を必要とする、例えば租税管理・健康保護・不正取り引き防止・消費者保護。
必然性のある理由:第30条の例外と部分的だけ重なる。
消費者保護の場合:直接差別(輸入品のみ)の場合には30条を適用、消費者保護が例外として挙げられていない。
隠された差別(全ての品物に妥当する規制の場合):Cassis de Dijonを適用、制限を消費者保護のために正当化できる。
Cassis de Dijonの場合:正当化の範囲がより広い。
30条の場合:隠れた差別に限らない。

IV.第30条、公共道徳の例

EC裁判所79年2月22日、CELEX 679J0034。
デンマークからイギリスへポルノを輸入。
イギリスの刑法に違反、刑事事件、被告人の主張:第28(旧30)条違反。
第28条違反が明白、問題は正当化の可能性。
公共道徳:加盟国の判断に任せれている、従って第30条の例外が成立。
直接差別も許されるから、全ての品物に対する規制がなおさら可能。

V.第30条、工業的および商業的所有権:並行輸入と消耗原理

特許権・商標権・著作権・意匠権が並行輸入の障壁:
英語では”first sale doctrine, exhaustion”。訳語は「消尽」「用尽」もあるが、権利が「消し尽くされる」わけではないため、「消耗」のほうが適切。
EUとECの関係、域内市場の目標。
域内市場が機能する場合、値段の格差はなくなる。競争原理が働く。
企業が知的財産権を利用することにより、域内市場の原理を妨害できない。
たとえば:日本の企業Aが著作権で保護された音楽CDをフランスの輸入業者Bに販売したところ、Bがフランス国内ではなく、ドイツの百貨店Cに当該商品を再販売した場合、Aが著作権に基づいてこの再販売を阻止できない。著作権の保護よりは、域内市場の理念が保護されている。
ある製品をEU域内で一旦市場に出す時点、その製品の域内再販売を知的財産権に基づいて阻止できない。したがって、知的財産権を武器に、加盟国ごとに別な値段戦略を採ることが困難。
権利がなくなるわけではない。例えば、上記の例では、市場に置かれた音楽CDを許可なく複製する行為が著作権侵害である。「編集・複製自由」(Open Source)ソフトと消耗原理の関係を考える際には重要な観点。
但し、EU域外で製品を市場に出しても、EU域内の知的財産権による保護が維持される。消耗原理の存在理由が域内の貿易自由であるため、第三国との貿易では、認める必要がない。
EC裁判所74年10月31日(Centrafarm)CELEX 674J0015。
第36条(当時、今第30条)は必要の限りのみ特許権を保護、域内市場の大原則の例外として限定的に解釈、最初の販売で充分、市場の配分を認めない、従って消耗原理。
EC裁判所98年7月16日判例 Silhouette。
C-355/96、curia.eu.intによる。
オーストリアのS社がメガネを製造。ブルガリアで販売された2万1千個をオーストリアに逆輸入。この場合には、域内の販売がないため、消耗原理を適用しない。
EC裁判所2001年11月20日(Zino Davidoff)、C-414/99 to C-416/99:商標所持者の同意がある場合、域外からの平行輸入も可能であるが、その同意は推定できない。

Posted by Karl-Friedrich Lenz at 2003年10月11日 17:02 | TrackBack
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