2003年10月22日

ドイツ法講義 第18回

I. 最近の動き

労働者の保証
連邦通常裁判所の第11法廷(銀行法担当)の2003年10月14日判決はある保証契約を良俗違反(民法第138条)のために無効とした。
本件契約の保証人は、債務者の労働者であった(月収手取り2222.7マルク)。債務者の経営が危機的な状態になったため、新たに20万マルクの融資を銀行に要請したが、銀行が担保を要求した。
そこで、被告は職場を失うことを憂慮し、保証人を引き受けた。数ヶ月後、債務者は破産した。原告(銀行)は、保証契約に基づいて支払いを請求している。第1審は訴えを棄却、第2審は訴えを認容、第3審では再逆転した。
良俗違反の理由として、第11法廷は以下の事情を強調した。①融資当時では、既に危機的な状態であった。②被告の支払い能力を遥かに超える金額で、一生、弁済できない。③被告は、職場を配慮して止むを得ず保証を引き受けた。④被告の保証義務に対する何らの反対給付がなかった。

II. 民法第138条:保証契約と良俗違反

「(1)善良な風俗に違反する法律行為は無効である。
(2)とりわけ無効である法律行為は、他人の苦境・経験不足・判断能力の欠如・著しい意志の弱さを利用して、自己に又は第三者にある給付の換わりに財産的利益を約束または提供させ、当該利益と給付の不均衡が目立つ場合、その場合の法律行為である。」
連邦通常裁判所1997年9月18日、BGHZ 136, 347。
銀行Xが経営者Aに融資。92年5月、およそ90万マルクの負債。営業所の土地に50万マルクの土地債務、動産の担保譲渡、生命保険からの請求権・顧客に対する請求権の担保譲渡。しかし、担保からして融資限度額を超えていたため、さらに、顧客の破産によりAが相当程度の被害を覚悟する必要があったため、銀行が新たな担保を要求。当時Aの婚約者であったY(現在Aの配偶者)がそのため保証契約に同意。92年10月、銀行が解約、A破産。XのYに対する請求が本件。
良俗違反(民法第138条)により、保証契約が無効?
現在の判例の基準:①家族の保証契約②保証人には、保証された債務に相当する財産がない③主たる債務者が財産を保証人に譲渡して債権者に損害を与える行動に対する対策としても、保証契約に債権者の正当な利益がみとめられない
を条件に、良俗違反を肯定。
本件:①婚約者でも配偶者でも家族。
②保証人の差し押さえ可能収入からして、保証金額の返済が無理。5年分がおよそ10万マルク、90万マルクの11%程度しかない。
③既に75万マルクについて充分な担保があったため、財産譲渡対策として必要な保証金額は15万マルクのみ。90万マルク全額を対象とする本件契約は、担保の取りすぎである。
YがXと比べて、弱い立場であり、保証契約について自分の利益がなく、単に、取引経験・法律知識がないために契約を締結する用意を、銀行が良俗に違反した形で悪用した、と評価。
良俗違反のため、保証契約が無効、Xの訴えを棄却。

III.民法第138条、第253条第2項(旧第847条) BGH NJW 1991, 1046 強姦示談

「身体・健康・自由および性的自己決定権に対する侵害のため損害賠償義務が成立する場合、被害者は非財産的損害についても適切な金銭的賠償を請求できる。」
2002年8月1日から旧第847条が第253条第2項に。損害賠償法改正法により、慰謝料についての改正:危険責任領域でも認める。改正法のその他の内容:子供の交通事故責任(過失相殺を含めて):10歳から、交通事故の危険責任の限度額を増額(現在75万マルクから600万Euroに、危険物運搬の場合には怪我・死亡について600万Euro、物についての損害別状600万Euro)、修理などを実際しない場合、付加価値税の分を請求できない。
本件被告が原告の親に7万マルク以上を融資。原告が14歳となってから数回に旅行に連れて、ホテルで一緒に宿泊。87年5月22日:弁護士による書面で警察に強姦罪など通告、8月6日示談成立。借金返済を放棄、その上に8万マルクの慰謝料を分割払い、原告側が通告を取り下げる義務、事件について沈黙する義務を負う、との内容。通告を取り下げた後、検察は事件を無起訴処分で処理。沈黙義務違反を理由に、1万マルクを支払った後に、それ以上の支払いを被告が拒否。
原告は示談に基づき残りの7万マルクを要求。
強姦が事実か、嘘かについては当事者の間に争い、上告審までは証拠調べなし。
138条、良俗違反:通告取り下げ義務が原則可能、賠償責任を追及する手段の場合。
賠償請求権を大幅に上回る利益を目的とする場合には良俗違反。
「懲罰的損害賠償」(punitive damages)がドイツの公の秩序に反する判例と同様、損害賠償によって儲かるべきではない、との判断が理由。
親の借金返済を放棄した利益については損害賠償請求権がない、原告については通常判例で認める金額(6千マルクから3万マルクまで、強姦殺人未遂の場合)と比較すると、8万マルクの慰謝料が高い。
示談に基づく請求権がないが、不法行為による慰謝料請求が可能、但し、証拠調べが必要。

IV.民法第134条:BGHZ 116, 268(91年)、病院の販売と患者データ

「法律上の禁止に違反する法律行為は無効である。但し、当該法律からみて有効であると分かる場合、その限りではない。」
医者Aが引退、病院を医者Bに販売、その際、患者データもBに譲る義務。
代金支払いを請求する訴訟で、この義務の不履行に基づいてBが抗弁。
民法134条:刑法第203条違反が問題、医者が患者データについて秘密義務を負う。
BGH NJW 1974、602: 秘密義務違反がない、患者の同意が推定される。
今回判例変更、患者の個別同意がない限り秘密義務違反。
データ保護の重要性が73年より認められるように。
当事者が以前の判例に信頼、故意違反がないが、客観的な違反でも134条が成立。

Posted by Karl-Friedrich Lenz at 2003年10月22日 12:56 | TrackBack
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