2003年11月12日

ドイツ法講義 第20回

I. 最近の動き

租税法改正に関する連邦参議院議決

11月7日の決議で、
① 脱税大赦法案を否決。この法案は成立する場合、2004年中には、外国で投資した脱税資金について一律25パーセントを支払う場合、脱税の責任がなくなる。2005年1月から5月までは、一律金が35パーセント。その後、この特別措置が修了する。連邦政府が200億ユーロ前後の脱税資産の帰国を期待し、それにより50億ユーロの税収増と推定している。
② タバコ税の増税、一箱分1ユーロ。
の法案を否決した。州の税収に響くため、連邦参議院の同意が必要。

勾留におくる手紙の検閲と翻訳費用

連邦憲法裁判所第2法廷第3部会10月7日決定(11月7日公開)。憲法第3条に基づく憲法異議を認容。
異議者は、武器法違反で起訴され、勾留となった。その際、異議者の家族などに出した手紙は全てドイツ語に翻訳された。異議者に対する有罪判決が確定した後、翻訳費用として11.494,20マルクを異議者に請求された。
異議者は、この扱いが彼のようにドイツ語を話さない外国人に対する差別である、と主張して、本件憲法異議の訴えを提起した。連邦憲法裁判所はこの主張を認め、手紙の翻訳については、①個別的に必要であるか否かの判断、②容疑者に、翻訳費用について警告すること、を要求した。その条件が充たされている場合、本件差別を刑事司法の機能のために正当化できるが、本件では個別判断も警告もなかったため、異議者に翻訳費用を請求することができない。

II.刑法第240条:BVerfG、NJW 1995, 1141(1995)座り込みデモ

事実関係:被告人は核ミサイル基地の前に座り込みデモ、そのため、軍のトラックが通れない。
「暴力」:物理的な力行使が必要か、心理的な強制で充分か。
以前の刑事判例(例えばBGHSt 23, 46):心理的強制で充分。座り込みも暴力。
罪刑法定主義、類推の禁止、構成要件の明白さ。
ドイツ連邦憲法裁判所判例86年11月11日、NJW 1987,43。
刑法第240条は違憲でない。
刑法判例の解釈が違憲か:4対4の同票で決定できない。
今回の結論:刑法判例の解釈が違憲。理由:
物理的な力行使:単にある所にいるだけでは足りない、被害者への影響が心理的のみ、必要な明白さがない、座り込みの目的によって起訴・不起訴が異なってくる虞れ、座り込みを罰するべき態度と考える場合、立法が必要。
その後の連邦通常裁判所の反応:95年7月20日の判決、NJW 1995, 2643。
事実関係:高速道路で座り込みデモ。
結論:強要罪が成立。
理由:最初に止まった車が後の車の物理的な障害物、心理的強制のみではない。
さらに、連邦通常裁判所第1刑事法廷2002年4月23日判決、www.hammpartner.de/1S100-02.HTM。
単に腕を開いて車の前に立つだけでは、「暴力」が成立しないが、その後、被告人は車のボンネットに体を乗せて物理的な力を行使して進行を妨害したため、「暴力」が成立した。

III.罪刑法定主義: 壁の狙撃者

連邦憲法裁判所第2法廷判決、96年11月12日、憲法異議を棄却。
Lenz 「壁の狙撃者と罪刑法定主義」青山法学論集39巻2号39頁参照。
EuGRZ 1996, 538またはNJW 1997, 929。
旧東ドイツでは、西への逃亡が犯罪、国境に壁、地雷、機関銃を持つ兵士。
壁で射殺された被害者について統一後起訴。
憲法第103条第2項、罪刑法定主義が問題。
旧東ドイツでは、狙撃者の行為が起訴されることが絶対にない。逆に起訴する行為が政治犯罪。
旧東ドイツ法を適用する場合でも違法な行為では問題がない。
「自然法」などを理由に、正当化事由を認めない場合、必然的に第103条第2項問題。
刑事裁判では103条違反がないと判断、有罪判決。
連邦憲法裁判所もこの判断を維持、憲法異議を棄却。
批判:罪刑法定主義の意義、旧東ドイツへの差別、座り込みデモ事例と壁の狙撃者事例の比較 、欧州人権条約第7条第1項との関係「何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった行為又は不作為を理由して有罪とされることはない。」「この条は、文明国が認める法の一般原則により実行の時に犯罪とされていた行為又は不作為を理由として裁判しかつ処罰することを妨げるものではない」。

IV.刑法第211条:同情殺害、BGHSt37,377

「(1)謀殺者は、無期自由刑に処する。
(2)謀殺者とは殺人嗜好から、性欲の満足のために、物欲から、若しくはその他の下劣な動機から、背信的に、若しくは残酷に、若しくは公共に危険を生ずべき方法を用いて、又は、他の犯罪行為を可能にし、若しくは隠蔽するために、人を殺した者である。」
被告人が看護婦。危篤患者5名を注射で殺害。動機は患者の苦しみに同情。
第一審判決:故殺。検察側の上告:謀殺と主張。
「背信的」:被害者が攻撃を予想しないこと、それによって無防備であることを利用。
更に、被害者に対する「敵対的動機」が必要。
被害者のために行動する場合、「敵対的動機」がない。
危篤患者の場合には、場合によっては「敵対的動機」がないが、 客観的に見て被告人の判断に妥当性があることが必要。
本件殺害行為の被害者の苦しみなどを配慮すると、同情する妥当性を容認。
検察側上告が棄却。
故殺について:「安楽死」による違法性阻却がない。
患者の同意がない、ドイツ法では不作為(治療中止)のみが認められる。

Posted by Karl-Friedrich Lenz at 2003年11月12日 10:38 | TrackBack
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