2003年11月19日

ドイツ法講義 第21回

I. 最近の動き

アメリカへの容疑者引渡し
連邦憲法裁判所第2法廷11月5日決定(11月13日公開)。
容疑者はイエメン国籍を有する者で、アメリカでテロ組織支援のため、逮捕状が発行されている。寄付を行うために、と騙されて連邦共和国に来たところで、ドイツで逮捕された。本件では、アメリカへの引渡しが可能であるか否かが問題。
結論:憲法異議の訴えを棄却。本件容疑の重大性を配慮した場合、仮に容疑者が騙されたとしても、引渡しが国際法違反とは言えない(別に誘拐されたわけではない)。また、確かに、アメリカのテロ関係捜査では拷問・特殊裁判・根拠不明の上にキューバなどの強制収用所での身柄拘束など、非法治国家的な側面が新聞などで報告されているが、本件については、アメリカ側が引き渡しを要請した際、通常の裁判にかけることを約束したこと、在アメリカのドイツ大使館は、この約束の履行について監視することが期待されていることを配慮し、引渡しが容疑者の人権を侵害しない。

タバコ訴訟:第一審判決は訴えを棄却

第3回の復習:
「連邦通常裁判所第4法廷、3月19日判決、記録番号IV ZR 139/01 。
原告がタバコメーカに対し損害賠償を請求する予定。請求原因は不法行為(民法第823条、製造物責任法)。被告は権利保護保険。本件訴訟はタバコメーカに対する訴訟費用を被告が負担しなければならないか否か、との問題に関するもの。
第二審は訴えを認めた。連邦通常裁判所は被告の上告を棄却したため、原告の勝訴が確定した。
被告は、本訴には「成功の見込みがない」と主張した。その点については、被告が遅滞なく書面で指摘する義務を普通契約約款に違反して怠ったため、判断する必要がない。
したがって、タバコメーカの責任に関する判断はまだ将来のもの(担当者の「未来法」発想)。」

今回は、Arnsberg地方裁判所が被告側の責任を否定(21万3千ユーロの損害賠償)。理由:因果関係の立証ができない。また、原告はタバコの使用頻度を削減したため、依存症の効果が認められない。製造物責任に基づく請求は、タバコには「瑕疵」がないため、成立しない。

検討・反論:因果関係を否定する判断は疑問。また、製造物責任については、当該商品の設計上の通常利用により損害が発生する場合、なおさら責任が成立すべきであり、被告側に有利に働くべき事情ではない。

II.刑法第211条:同情殺害、BGHSt37,377

「(1)謀殺者は、無期自由刑に処する。
(2)謀殺者とは殺人嗜好から、性欲の満足のために、物欲から、若しくはその他の下劣な動機から、背信的に、若しくは残酷に、若しくは公共に危険を生ずべき方法を用いて、又は、他の犯罪行為を可能にし、若しくは隠蔽するために、人を殺した者である。」

被告人が看護婦。危篤患者5名を注射で殺害。動機は患者の苦しみに同情。
第一審判決:故殺。検察側の上告:謀殺と主張。
「背信的」:被害者が攻撃を予想しないこと、それによって無防備であることを利用。
更に、被害者に対する「敵対的動機」が必要。
被害者のために行動する場合、「敵対的動機」がない。
危篤患者の場合には、場合によっては「敵対的動機」がないが、 客観的に見て被告人の判断に妥当性があることが必要。
本件殺害行為の被害者の苦しみなどを配慮すると、同情する妥当性を容認。
検察側上告が棄却。
故殺について:「安楽死」による違法性阻却がない。
患者の同意がない、ドイツ法では不作為(治療中止)のみが認められる。

III.立法者無視、BGHSt30, 105

被告人がドイツ滞在トルコ人。被告人の叔父である被害者が被告人の妻を強姦し、被告人に対し侮辱、脅迫を繰り返した。被告人が銃で攻撃を予想しない被害者を殺害。
「背信的」?
被害者の態度を配慮した場合、無期自由刑が重過ぎる。
連邦憲法裁判所判例BVerfGE45, 187(77年)によってこのような事例で手当てが必要。
総則の刑を軽減する事由(責任能力・禁止の錯誤など)を類推適用、3年から15年までの自由刑。
刑法の解釈か、刑法無視か。
問題点:(Tröndle/Fischer 17 zu 211): 故殺より最低刑が軽い、未遂などの場合には二重に軽減すべきか、課題である謀殺構成要件の制限的解釈から逃げている等。
従って、「判例」ではなく、刑法を適用すべき

IV. 刑法第242条:「十字架」

「窃盗
(1)不法に領得する目的で、他人の動産を他人から奪取した者は、5年以下の自由刑又は罰金に処する。
(2)この罪の未遂犯は、これを罰する。」
1995年:Grafingの高等学校で夜間すべての十字架を取り出し、その変わりにコーラン聖句・陰陽シンボル・平和のハト・Zarathustra箴言(しんげん)・Rosa Luxemburg引用(記事による)。
背景:連邦憲法裁判所95年5月16日判決(BVerfGE 93, 1):学校で十字架を飾ることが違憲。
窃盗罪:動産・他人の・奪取・不法に領得する目的。
不法に領得する目的:目的は奪い取りのみ、自分の財産にする目的ない。
使用窃盗と同様。

V. 刑法第242条: 麻薬代金、BGHSt31,145

AがBに麻薬を販売、Bが代金をAから盗む。
代金について没収が問題、Aが代金の所有者か。
窃盗罪:「他人の」が問題。
BからAへ紙幣の所有権を譲渡する契約、無因主義。
民法第134条。
麻薬取引の禁止を解釈、目的から考えた場合には代金の譲渡も禁止、無効。
従って、この場合「他人の」ではない。

VI. 刑法第242条:スロット機から賞金を不正獲得

Aがスロット機を操作するプログラムを入手、不正操作により100マルク獲得(BGHSt40, 331)。
コンピュータ詐欺(刑法第263a条)。
窃盗:「奪取」が問題。通常事例:磁石など使用 。
経営者の同意がないため、奪取+。

Posted by Karl-Friedrich Lenz at 2003年11月19日 12:12 | TrackBack
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